
【Vol.1】大黒様の袋の中身は?
私はネコ。
鞄屋に居候するネコだ。
居候とはいうものの、好奇心の風が吹けば、
あちらこちらへと出かけていき、
そしてまた気が付くと鞄屋でうとうとしている、
といった塩梅だ。
鞄屋にはいつも、
ミシンとトンカチの音がしている。
そのリズムが、どこか心のリズムをも整えてくれるようで、心地がよいのだ。
鞄屋は「日乃本帆布」と言う。
工房は、上杉の城下町、山形県米沢市にある。
「ものづくりの精神」から生み出される鞄は、職人のこだわりと技術と愛情がたっぷり。
丈夫で、使うほどに金具や生地そのものが、
その人ならではの風合いを増すと長く愛用されている方が多いようだ。
工房の側にはお店があり、時々やってくる常連さんたちは「鞄を育てる」なんて、
おもしろいことを口にしていた。
鞄は日々を共にする「相棒」といったところなのだろうか。
それから工房を持つ日乃本帆布だからこそ、修理をしたり、
現存のモノにポケットやショルダーを付けたり、お客様仕様のカスタマイズも。
定番から季節の商品、サイズ違いや、帽子、財布など幅広く商品が揃うここは、
帆布ファンにとって「聖地」なんだそうだ。
鞄屋にいるものだから、
私は近頃鞄が気になるようになった。
特にその使い勝手と中身だ。人は誰でも日常の中で鞄を持ち、必要なものを持ち歩く。
小学生のさっちゃんはむらさき色のランドセル。
中には筆入れや図書館で借りた大好きな絵本が入っている。
たっくんは紺色。
カタカタコロコロ、何が入っているんだろ?いつも楽しそうな音をならして走っていく。
鞄からその人の人柄や日常が見えてくるから面白い。
鞄を持つのは、人だけではない。
米沢市の小野川温泉にある「甲子大黒天(きのえねだいこくてん)」だ。
湯殿山系山伏と上杉家祈願所の法流を融合し今に伝える修験道寺院で、
開運招福・商売繁盛の大黒様として親しまれている。
ほほえみを浮かべながら、肩には大きな袋を担いでいた。
さて、中には何が入っているのだろうか。
関谷寛明住職にお話を伺ってみた。
すると「もともと大黒様は仏様だったんですよ」と意外なお話を伺うことになった。
インドのヒンドゥ-教の神様が仏教に取り入れられ、
シルクロードで中国にわたって厨房に祀られるようになり、その後日本に伝来。
日本古来から信仰のある大国主命(オオクニヌシノミコト)と、
仏教の大黒天が習合して今のお姿になられ、1868年(明治元年)に神仏分離令が出されるまでは、
神様であると同時に仏様でもあるとされていたのだとか。
そしてインド、中国で信仰される大黒様のお姿は、日本と全く異なるらしい。
「大国主命も袋を持っていますよね。合わさった際に袋を持つようになったと言われています」。
平安時代の大黒様は袋を持たれたお姿で、江戸時代には米俵に乗り、五穀豊穣の福の神としての信仰が。
その後打ち出の小槌を持って、商売繁盛・財運の福の神として親しまれるようになった。
「皆さん様々な願い事を持っていますよね。大黒様の袋は、どんな願いでも私が叶えて差し上げましょう、という象徴なんです。
ですから、入っているのはいろんな方へのご利益。
大黒様が願いを叶えたいという想いが、袋をどんどん大きくさせたのではないでしょうか」。
甲子大黒天が担ぐ袋を拝見。大きくてずっしり、たくさんのご利益が入っていそうだ。
甲子大黒天を後にし、小野川温泉の足湯や観光案内所、お土産屋さんが立ち並ぶ温泉街をてくてく。
昔は地域や職場で旅行に行き、神社を参拝する講中参拝が盛んだった時代があり、
小野川温泉では大黒様をお参りした後、皆で福餅をご馳走になるという習わしがあったそう。
近年は信仰も旅行も少人数の時代。今は家族や友人、カップルで、旅を楽しむ人の姿が。
そして、小野川の湯につかった人々は、表情もホカホカ。
笑顔が大黒様のように朗らかになっているようにも見える。
手に持つ袋の中には、小野川名物のラジウム卵や温泉饅頭がちらり。
自宅で旅行を思い出しながら味わい、お土産にするならお福分けにもなるのだろう。
小野川でお会いした大黒様の袋はとてもとても大きかった。
そして、日乃本帆布 米沢本店の前にも、大きな鞄がディスプレイされている。
実際にお店で長く販売されている、
人気の定番トートバックを職人がそのままのデザインで丁寧に大きく仕上げたもので、
ネコ3匹がぬくぬくお昼寝できちゃうくらいの大きさ。
本店の看板としてお客様を驚かせている。
技術力と帆布という素材から、雨や風にあたりながらよい風合いとなった。
大黒様の袋にご利益が入っているならば、日乃本帆布の袋はお客様の元で、
たくさんの幸せを詰め込みながら、どんどんと育っていくことだろう。
協力/甲子大黒天本山
(https://onogawa-daikokuten.jp/)
著/キクカク企画 阿部薫
協力/甲子大黒天本山
(https://onogawa-daikokuten.jp/)
著/キクカク企画 阿部薫